顔が見えるものづくり
2022年6月1日
記事|
山口愛莉沙
大工の手による家具再生
私たちが建築させていただいた、築43年•想いと時間を繋ぐリノベーション。
リノベーション工事が終盤になってきた頃、お施主さまの引っ越しの準備も始まりました。
このテーブルは、新しいお家に持っていく
幅1,000㎜×奥行2,000㎜の大人6人でもゆったり座って食事ができる大きなテーブルが、お引越し前のマンションの隅に置かれていました。テーブルの天板は汚れ、部分的に塗膜も剥がれていました。
「これは持って行かないよ。新しいものを買いましょう」
どのご家庭でもある会話です。
新しいお家には、新しいものを。それもワクワク・ドキドキで楽しい時間ですが、これまでの時間を大切に思う方もいらっしゃいます。そのまま新しいお家に持ってきて馴染むものと、少し手を加えれば馴染むものと、それはつくり手の私たちが全体の空間を考慮して提案しなくてはいけないことです。
お話を聞くと、このテーブルは約20年前に家を建築したくれた大工さんが作ってくれたものだと。
家具屋さんが作るような繊細なディティールではないけれど、大工さんらしい、ちょっと無骨だけれどシンプルな構造とデザイン。誠実な想いで造られたのが伝わってくるダイニングテーブルでした。
持って行きましょう。これは削ったら綺麗になりますよ
こうして20年前に大工さんが作ったテーブルは、今回リノベーション工事をしていただいた大工さんへとバトンが渡され、家具の再生が始まりました。
汚れた表面の塗膜を削って綺麗にするだけでなく「より良いモノをつくりたい」という想いから、一手間くわえることに。
元々、テーブル天板の小口は、四方向すべて角のない丸面加工になっており、見た目も手触りも柔らかい印象でしたが、今回はシンプルでシャープな印象へ変えるために、丸面は全て切り落として糸面加工仕上げにしました。
汚れがついた塗膜を削り。目が粗いペーパーヤスリから5段階ほどに分け、どんどん細かい目のヤスリを当てて削りました。
2人で削ること90分。ようやく、表面の塗膜が剥がれて綺麗な木目が現れました。
テーブルの4本脚は、元々105㎜×105㎜の角材でした。そのままでも問題ないのですが、天板に合わせて脚もシャープに見えるようにカッコよくできないか…。
天板と固定するための仕口加工や金物はそのまま残しながら、脚をシャープに見せるにはどうしたら良いか…。大工さんが良いアイデアを出してくれました。脚の4つ角を大きく45°切り落とし、4角形の脚を8角形に。
4角形の脚が8角形になりました。
脚も天板と同様に、表面の塗膜を剥がすためペーパーヤスリで削り、完成。
番付のある仕口加工は、以前のまま。当時このテーブルを作った大工さんが20年前に刻んだものです。時を超えて、2人の大工さんの技術と知恵が刻み込まれた脚になりました。
天板と脚を組み立て、みんなが集う2階のリビングに設置されました。
生まれ変わったダイニングテーブルは、新しいお家に自然と馴染み、まるで新品のようにも見えますが、20年以上もの長い間使い込まれてきたものです。
大量生産•大量消費の時代になり、丁寧にモノをつくる機会も、つくる人も少なくなりました。しかし、家をつくる大工さんは今もまだ、確かな技術と知恵を持っていて、それは私にとって驚きと感動の連続です。「ものづくりってこんなに楽しいんだ」とワクワクします。大工さんが持っている技術と知恵を守り、広げて、次に繋げて行くことが私たち工務店の使命だと思っております。
このダイニングテーブルは、これまでの20年、そして、これから20年、30年と使い継がれるテーブルになりました。住まい手の想いと、つくり手の想いが一つになり、良いモノづくりができた家具再生の時間でした。