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イイナたてもの

2018年2月2日

記事|
山口愛莉沙

築50年|9坪ハウス

築50年|9坪ハウス

今年も関東に雪が降りましたね。


近年の冬は気温も高く、東北の降雪量も少ない年が続いていましたが今年は豪雪のようです。

私は山形県米沢市で生まれ育ちました。先日、お正月帰省した際に祖母の家に行ってきました。小さい頃からよく寝泊まりしていていた祖母の家ですが、建築に携わっている今、改めてじっくり見てみると「面白いな」とか、「すごいな」と感じる部分が多くありました。



祖母の家は、築50年を超えた延床面積9坪の長屋です。


給湯器や瞬間湯沸器はありません。なので水道の蛇口をひねっても温かいお湯は出ません。冬は蛇口が凍らないように水をチョロチョロ出しっぱなし。

50年以上も前の建物なので、もちろん断熱材は無く、窓は木製でガラス1枚なので隙間風が。窓の鍵は、今では見かけることも無くなったキコキコ回すネジ締まり錠。夏は暑く、冬は寒いのにエアコンも無く、冬場の暖房はストーブとこたつのみ。今時期は室内温度=外気温状態なので、こたつで温まっていても白い息が出ます。ヒートショックを起こさないか、、心配です。

トイレは汲取り式のまま。階段はハシゴのように急で、お風呂は後付けのためキッチンの横に浴槽があります。おまけに洗濯機は未だに二層式。


私が小さい頃から何一つ変わっていませんでした。



祖母は今年で80歳になりますが、未だにこの家に一人で暮らしています。

「便利」とか「時短」が当たり前になっている今でも、この家に住まい続けている祖母が心配ではありますが、私は尊敬します。

便利が当たり前になってくると、人は自分で考えることがどんどん少なくなり、知らぬ間に機械に頼る生活になってしまうように感じます。祖母の家は不便すぎるかもしれませんが、少しくらいの不便な方が、一生懸命に知恵を絞って自分にできることを考えます。

家が小さいことは決して不便ではなく、むしろその小さいをポジティブに考え、住まいの「当たり前」を見直してみると、9坪ハウスの暮らしも楽しめるように思いました。



この写真は、祖母の家の「台所」をパノラマ撮影した写真です。


左から勝手口・食器棚・キッチン・浴槽・洗い場・二層式洗濯機。今の住宅では考えられない空間です。今は1坪のユニットバスに、1坪の洗面脱衣室が当たり前ですね。

この家では熱々の湯船に浸かりなから、台所へ手を伸ばしてキンキンに冷えた水を飲むことができます。壁が1枚ないだけでこんな暮らしになり、その体験が子供の私には一番楽しかったようで、祖母の家に泊まった記憶の中で鮮明に覚えている思い出です。



誰もが想像できる広くて、設備の整った住宅は便利なものですが、ちょっと不便でも「こんなの見たことない!」という住宅は、面白くて、楽しくて、人の記憶に残り続けるのだろうと思います。

私たちがつくっている木造ドミノ住宅は、安心で快適な箱。しかし、室内の間仕切り壁は自分の暮らしに合わせてカスタマイズできることが、楽しくて、面白くて。そんな暮らしができる住宅です。そんな暮らしを望む人が増え、そんな家がもっと広まっていったら、地域の街並みもきれいで楽しくなるのにな、といつも思います。


祖母は、何度一緒に住もうと声を掛けても、この不便で、心配の多い9坪ハウスから離れようとしません。なんとかしなくてはと思いますが、この家が祖母の生き様なのだと思います。

今年の米沢は久しぶりの豪雪で、祖母の家は今年4度目の雪下ろしをしたそうです。私も将来、9坪ハウスで暮らすという夢ができました。

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山口愛莉沙
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